灯火の先に 第20話


そもそも、おかしな話なのだ。
ゼロの影武者が誰なのか、シュナイゼルが、C.C.が影武者として選んだというのだから、よほど信頼できる人物のはずなのに、それが誰なのかヒントさえもらえなかった。

おかしいと思うことが一つ見つかれば、連鎖的に色々と見つかる。
オレンジ農園では何をするにも体力が必要で、身体能力の高い者は、労力として喉から手が出るほど欲しかったはずだ。ダラダラとだらけていたC.C.でさえ時折手伝わされていたのに、あの場にいる誰ひとりとして、肉体労働を頼もうとしなかった。

そう、あれもおかしかった。
目が見えない状態での訓練。
ジェレミアは変な遠慮があるせいか拒否したが、C.C.とアーニャは喜々としてピコピコハンマーを手に攻撃を仕掛けてきた。反対に言えば、あの二人しか仕掛けてこなかった。あのような場面であれば、たとえ失礼に当たったとしても、遠慮するどころか率先して仕掛けてくるはずなのにだ。

あの時もおかしいなと感じた。
カレンが来た時に、お茶を用意したのがアーニャだった。
あれだけの騒ぎで気付かないはずがないのに、あの場には最後まで顔をだすことはなかった。

あれも、ずっとおかしいと思っていた。
足音に違和感しかないのだ。
脳内に残る彼女のイメージと、足音がどうしても一致しない。
それは独特な歩き方だからとか、わざとそうしているのだとか考えようとしていたが、そうではなかったのだ。

おかしなことは他にもある。
一緒に暮らしていれば、ちょっとしたことで相手に触れてしまうことがある。
目が見えないから、気配を読み間違えてぶつかったりするのだ。
だが、あの中でただ一人だけ、絶対に一定距離以上近づいて来なかったものがいた。常に遠くから声をかけ、手を出すことが無かった人。
今も手を繋げば移動も楽だったのに、わざわざ道具を間に置いた。

考えれば考えるほど、おかしなことだらけだ。
だが一番おかしいのは
C.C.が一度も名前を呼ばなかったことだ。


「ゼロだ!撃てっ!!」

リーダーらしき男の声と同時に、幾つもの銃声が響き渡った。
駆け寄る男の叫びは銃声にかき消され誰の耳にも届かなかったが、勝者の笑みを浮かべて銃弾を放っていた男たちの表情が凍ったのは、その直後だった。

「な!?ば、ばかな!?」
「撃てっ!撃て!!手を止めるな!!」
「弾が当たらない!?化け物か!?」

銃声は止まること無く、傘を手にした男に照準を定め発砲を続けていたのだが、その男は人並み外れた動きで、それらを全てかわした。銃弾の雨の中を駆け抜ける姿は、本来ではありえないもの。
だが、彼らの脳内にはある場面が再生されていた。
ゼロがあのルルーシュ皇帝を撃ったあの日、今と同じように銃を向けられていたにもかかわらず、弾丸を全てかわし、ブリタニア軍全てを飛び越え、悪逆皇帝の前へと降り立ったあの姿。
これはあの日の再現。
ゼロだからこそ、銃弾の雨の中も駆け抜けることが出来るのだ。
そう、ゼロに銃弾は効かないのだ。
ならば、自分たちに勝てる相手ではない。
そう悟った時にはもう遅く、盲目の英雄は眼前まで迫り、手に持っていた傘をまるで剣のように扱い、銃を向けている者たちを次々に殴り倒していった。力は相当なもので、たった数回傘を振っただけでその柄は折れてしまい、これはもう使えないと判断すると、傘を投げ捨て、回転しながらのケリを繰り出した。

筋肉に覆われた体を持つ屈強な男たちが、為す術なく吹き飛ばされていくさまを呆然と見ていると、鋭く細められた翡翠の瞳と視線があった。

そう、視線が。

盲目のはずの男は、僅かな明かりに照らされたこの場所で、まるで水を得た魚のように駆けまわり、20を超えていた元軍人たちを次々と沈めていく。
あまりのことに呆然としていると、ゼロ相手に正攻法は通じないと悟った男が、銃を手にこちらへ向かってきた。だが、こちらが身構えるより先に・・・蹴り飛ばされていた。
大男を蹴り飛ばし目の前に立った男は、翡翠の瞳でこちらを見ていた。

・・・そう、見て。

当然か、見えていなければ、飛び道具を避けることなど不可能。
音だけで判別してなど、さすがのスザクでも無理な話だ。
だが、視力が戻れば。
いや、視力が戻ったからこそ。
銃弾をかわし、これだけの人数相手に立ち回ることができるのだ。

「くそっ!ゼロオォォっ!」

銃を向けた男の叫びに、スザクは視線をそちらに向けた、そして一瞬でその男のそばへと駆け寄ると、その速さに驚愕の表情を浮かべた男を殴り飛ばした。

「そこから動かないで」

こちらを見てそう言った後、奥で待機していたこの男たちの仲間が騒ぎを聞きつけやってきたが、それらも全て一瞬で吹き飛ばし、全員気絶させた。
あっという間という言葉しか出てこない、そんな光景だった。
気づけばここで立っているのは二人だけ。
全員気絶し、もう誰も来ないと判断したスザクはゆっくりと近づいてきた。

「それで?どういうことか説明してもらえるかな・・・ルルーシュ」

静かに放たれた言葉は、僅かに震えているように聞こえた。

「スザク様、視力が戻られたのですね」
「もういいよ、その話し方。君、マスクしてたんだね、それに変声機仕込んでるのかな?」

黒く腰まである長い髪の女性は、どうみてもルルーシュそのものだった。
懐かしい紫玉の瞳が長い前髪から覗いており、その顔の下半分を白いマスクが覆っていた。若干声がこもって聞こえていた理由にようやく納得する。
だが、ルルーシュは柔らかく目を細めて笑った。

「いえ、マスクは少しでも顔を隠すためでございます。私の顔もC.C.様同様知られておりますので、以前作りましたルルーシュ様のお顔をお借りしております」

以前聞いたことがある。
生徒会のイベントでのルルーシュがすごかったと。
あの運動が苦手なルルーシュが、人の頭を飛び越えるほど高く飛び、女性陣によるお色気作戦にも顔色一つ変えること無く、その上長距離を走っても息一つ切らさないどころか、誰も追いつけなかったという。そんなありえない話に当時はきっとギアスを使ったんだと結論を出しはしたが、ある日ふと思い出してその話をC.C.に聞いた時、咲世子がルルーシュに変装し、学園生活を送っていて、あの日のルルーシュは咲世子だったと教えてもらった。人種も性別も違うというのに百を超える人間が見ても、それが偽物だと誰も気づかなかったという。
それほど、咲世子の変装は完璧なのだ。
声も、容姿も全て彼女ならコピーできるのだ。

「・・・じゃあ、マスク外してよ」
「今は無理でございます。さあ、今のうちに安全な所に行きましょう」
「顔の方じゃなく、そのマスク。声、それで変えてないなら外せるでしょ?それとも別の質問がいいのかな?君が本当に咲世子さんなら、この程度の相手どうにでもできたでしょ?僕が側にいても」

確かにスザクの運動神経は並外れているが、それを言うなら咲世子も同じだった。
しかもこの薄暗い中、相手は女一人と油断していたのだから、咲世子でも十分勝算があった。いや普段の彼女ならスザクを連れたまま移動し、闇に紛れ全員の行動を封じただろう。それなのに、彼女は最初から戦闘を諦めていた。
おそらく隙きを見て逃げ出すか、相手の行動を封じる予定だったのだろう。だが、策を練り、相手を油断させ隙を突くのは咲世子ではなく、ルルーシュのやり方だ。
なにより、マスクを外すだけなのに、それを拒否する事自体がおかしい。

「自分で外せないなら、僕が外そうか?」

一歩近づくと、一歩下がった。
それはスザクの質問に是と答えているようなもの。
確定だな、やはりルルーシュだ。
そう思った時、この場に駆けつけてくる新たな足音が近づいてきた。

*****

※注意※
これを書いている人はスザルル、Cルルを書いている人なので、ルルーシュ不在の話なんて最初から書きません。

色々と不自然すぎてバレバレで、読み手的には微妙な展開だった気もするけど、書いている私だけは楽めたので問題なし。

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